妻が夫婦割で予約を入れてくれて、映画『国宝』を観に行った。
娘いわく「ポップコーン食べる暇がないほど面白いらしい」映画だそうで、確かにその通りだった。
上演前にはくちゃくちゃと音を立てていた観客も、無音が多いこの映画が始まると、ピタッと手を止めた。
この美しすぎる映画には、ポップコーンが入り込む隙が微塵もない。
何度も涙でスクリーンが霞んだが、それを妻に気づかれないよう、涙を拭わず流しっぱなしにしておいた。
印象深かったのは、主人公の「神様じゃない、悪魔と取引したんだ」という一言。
その一瞬の美しい景色を求め、自分の人生の全てを投げだす生き様に、胸を突かれた。
ふと、ギターのテクニックを手に入れるために悪魔と取引をした——そう語られる伝説のブルースマン、ロバート・ジョンソンが頭をよぎる。
芸を極める者は、時代も国も関係なく、同じ危うい橋を渡るのだろう。
自分ではきっと映画館には観に行かなかったであろう作品。
夏休みのいい思い出になった。