44/100 何を遺すか、どう遺すか、誰に遺すか
遺品整理の業界では、以前から「デジタル遺品」の整理が課題として挙げられてきました。
スマートフォンのパスワードが分からない。
何を契約しているのか分からず、毎月の料金の引き落としが続いている。
SNSのアカウントは、残すのか、削除するのか。
家具や衣類のように目に見えるものとは違い、存在そのものに家族が気づけないこともあります。国民生活センターにも、こうした相談が寄せられています。
さらに、遺言書にもデジタル化の動きがあります。今年6月には、パソコンなどで作成する「保管証書遺言」を新設する改正法が成立・公布されました。利用開始には施行を待つ必要があり、スマホに文章を保存すれば、そのまま有効な遺言になるということではありません。
自分に何かあったとき、家族が困らないようにしておく。
これは大切な準備です。
そんなことを考えていて、心に浮かんだのが、坂本龍一さんの「KAGAMI」という作品でした。
特殊なヘッドセットを着けると、目の前の空間に、ピアノを弾く坂本さんの姿が現れる。まるで同じ場所で演奏を聴いているように感じられる、MR〈複合現実〉のコンサートです。坂本さん自身が、生前の最後の4年間に、制作集団Tin Drumと共同でつくり上げた作品だそうです。
坂本さんは1952年生まれ。2023年に71歳で亡くなられました。私にとっては親の世代です。
日本の音楽やカルチャーをつくってきた人が、人生の最後に、新しい形で演奏を未来へ手渡した。
私はそこに、坂本さんからの最後の提案のようなものを感じました。
自分がいなくなった後に、何を残すのか。
そして、それを誰に手渡したいのか。
そう考えると、これは遺品の整理だけで済む話ではなくなります。
手渡すには、受け取ってくれる相手が必要です。
その相手に、自分も喜んで手渡せるものであってほしい。
できれば、相手にも喜んで受け取ってもらいたい。
となれば、その中身も問われます。
もちろん、誰もが坂本さんのような作品を残せるわけではありません。
家族の写真や、何気ない会話の動画。
誰かに教えてきた仕事。
一緒に過ごした時間や、日々かけてきた言葉。
そういうものにも、手渡せるものはあると思います。
私も毎日ブログを書いていますが、これが積み重なった先に、何が残るのだろうと考えます。いつか家族が読んで、「こんなことを考えていたんだな」と、少し笑ってくれたらうれしいですね。
ただ、残したいと思うだけでは、受け取ってもらえるとは限りません。
誰かとの関係を育んできたのか。
何かを惜しまず伝えてきたのか。
自分が大切にしていることを、日々の行動にできていたのか。
「何を残すか」を考えていたはずが、いつの間にか「どう生きるか」という問いになっていました。
喜んで手渡せる相手がいる。
その人に手渡したいと思えるものがある。
そんな人生を歩めているだろうか。
スマホの中を整理することも大切ですが、その問いも、これからの日々の中で大切にしていきたいと思います。

