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844/1000 空き家はあるけど、空きがない街 

844/1000 空き家はあるけど、空きがない街 

私が住む庄内の温泉街は、日本海に面している。

海が近いというのは景色としては素晴らしいが、建物にとってはなかなか過酷な環境でもある。

冬になると、海から強い風が吹きつける。

潮を含んだその風は、家の外壁や屋根を少しずつ侵食していく。

人が住んでいる家ならまだいい。

壊れたところは直され、手入れもされる。

しかし空き家になると、話は別だ。

あっという間に傷みが進む。

外壁が剥がれ、屋根の一部が飛び、風の強い日にはそれらが近所の家へ飛散する。

この地域では、空き家というのは静かに朽ちていくものではなく、

風と一緒に周囲へ広がっていく存在でもある。

では、なぜ手放さないのか。

多く聞く理由は二つある。

一つは

「仏壇があるから、たまには帰省するつもり」

もう一つは

「土地はもっと高く売れるはず」

しかし現実には、帰省することはほとんどなく、

土地の値段もバブル期の三分の一以下になっている。

それでも家は残り続ける。

不思議なことに、この町には

「住みたい」という人は少なくない。

海があり、温泉があり、静かで暮らしやすい。

この町に価値を感じてくれる人は確かにいる。

しかし、その人たちが住める家がない。

空き家はある。

けれど、住める空きがない。

私は家財整理の仕事をしているので、

空き家の相談を受けることも多い。

家というのは、建物というよりも

思い出の箱なのだと思う。

だから手放せない。

きっと、

故郷がなくなることへの不安があるのだろう。

しかし、放っておくと家は朽ちていく。

そして海風は、思い出には遠慮してくれない。

放置は最悪の決断だ。

売る、貸す、壊す、守る。

どんな選択でもいい。

ただ、何もしないまま時間だけが過ぎると、

家も、街も、ゆっくりと傷んでいく。