春の訪れを何で感じるかといえば、いろいろある。
やわらかくなった風だったり、田んぼの雪解けだったり、店先に並ぶ少し明るい色の服だったり。
けれど私の場合、少し変わったもので春を感じる。
海の近くに住んでいるせいか、真夜中の海岸線を爆走する元気のいい若者たちの気配だ。
遠くから、どんどん近づいてくる。
エンジンの甲高い音や、メロディー付きのクラクション。
正直に言えば、ただの騒音でしかない。
迷惑と言われれば、その通りだろう。
それでも不思議なもので、あの音が遠くから聞こえてくると、
「ああ、春が来たな」と思う。
冬のあいだ静まり返っていた海岸線に、急に人の気配が戻ってくる。
若さというのは少し乱暴で、少し騒がしくて、それでもどこか季節の匂いがするものだ。
ところが今年は、なぜだかその音をまだ聞いていない。
遠くからどんどん近づいてくる、あのエンジンの音も、クラクションも聞こえない。
民度が向上したのか。
それとも、単純に人が減ったのか。
静かなのは良いことのはずなのに、どこか物足りない。
春とは、花が咲くことだけではなく、人のざわめきが戻ってくることでもあったのだと、少し思う。
もっとも、もしかしたら理由はもっと単純かもしれない。
海岸線の道路が一部崖崩れになって通行止めなので、ルートが変わっただけなのかもしれない。
だとしたら納得だ。
来年あたり、また遠くからエンジンの音が近づいてきて、あのメロディー付きのクラクションが夜の海に響くだろう。
少し迷惑で、でもどこか春らしい。
私の春一番は、そんな音なのかもしれない。