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848/1000 私の春一番 

848/1000 私の春一番 

春の訪れを何で感じるかといえば、いろいろある。

やわらかくなった風だったり、田んぼの雪解けだったり、店先に並ぶ少し明るい色の服だったり。

けれど私の場合、少し変わったもので春を感じる。

海の近くに住んでいるせいか、真夜中の海岸線を爆走する元気のいい若者たちの気配だ。

遠くから、どんどん近づいてくる。

エンジンの甲高い音や、メロディー付きのクラクション。

正直に言えば、ただの騒音でしかない。

迷惑と言われれば、その通りだろう。

それでも不思議なもので、あの音が遠くから聞こえてくると、

「ああ、春が来たな」と思う。

冬のあいだ静まり返っていた海岸線に、急に人の気配が戻ってくる。

若さというのは少し乱暴で、少し騒がしくて、それでもどこか季節の匂いがするものだ。

ところが今年は、なぜだかその音をまだ聞いていない。

遠くからどんどん近づいてくる、あのエンジンの音も、クラクションも聞こえない。

民度が向上したのか。

それとも、単純に人が減ったのか。

静かなのは良いことのはずなのに、どこか物足りない。

春とは、花が咲くことだけではなく、人のざわめきが戻ってくることでもあったのだと、少し思う。

もっとも、もしかしたら理由はもっと単純かもしれない。

海岸線の道路が一部崖崩れになって通行止めなので、ルートが変わっただけなのかもしれない。

だとしたら納得だ。

来年あたり、また遠くからエンジンの音が近づいてきて、あのメロディー付きのクラクションが夜の海に響くだろう。

少し迷惑で、でもどこか春らしい。

私の春一番は、そんな音なのかもしれない。